
文:高岡英夫(運動科学総合研究所所長)/2013年2月28日掲載
前回は、すべての国会議員が毎日必ず1時間ないし2時間ほど、身体意識を鍛え上げる専門的なトレーニングに取り組む必要があるというお話をさせていただきました。
こうした私の提案に対し、多忙な政治家がどうやってその1~2時間のトレーニング時間を捻出するのか、という疑問や反対意見を持たれる方は、少なからずいらっしゃったことでしょう。
一日は誰にとっても24時間しかありませんので、身体意識の専門的トレーニングに毎日1~2時間打ち込めば、当然それだけ政治家にとって必要な活動をする時間が失われるからです。
仮にある政治家が、毎日10時間政治家としての活動を行っていたとして、そこから1時間、身体意識のトレーニングのために費やすとしたら、残り9時間でいままでどおりの仕事ができるのか。さらにはそれ以上の成果が期待できるのかということが問われているわけです。
つまり、経済学の基本ともいえるコストパフォーマンスの問題です。この場合、主に時間的コストについて考えなければなりません。
今回は、そうした視点から身体意識トレーニングのコストパフォーマンスについて検証していくことにいたします。
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まず、身体意識トレーニングは、とてつもなく過酷な身体運動を要求するものではありません。したがって、トレーニングに取り組むことによって、疲労を引き起こし、トレーニングに要した時間によるロスに加え、疲労まで蓄積し、それにより本来行うべき政治家としての労働力が損なわれるといった心配は、不要です。
ゆえに、身体意識トレーニングに必要なコストは、単純にトレーニングに打ち込んだ分の時間コストとして計算すればよくなります。
ただしそれは、どのような方法を、身体意識を鍛えるためのトレーニングとして採用するかによってもだいぶ事情が変わってきます。
そこで今回の検証では、私どもが長い歳月をかけて研究開発し、すでに多くの人々、多くの分野の方々に取り組んでいただくことで効果を実証し、さらに改善、洗練させてきた、運動科学総合研究所独自のメソッドを利用するという前提で、話を進めさせていただきます。
そのことからすると、当然、最も優れた方法を厳選して国会議員の皆さんには、学んでいただくことになるでしょう。
何といっても、日本という国を担うべき立場の政治家たちに取り組んでもらう以上、適当なものを並べて、それで何とかなるだろうという考えは当然あり得ないわけですから、最も優れたメソッドを選りすぐって、必要な方法を取捨、選択、整理して、ラインナップして提供するのは当たり前です。
また、実際にその方法を教伝する指導者も、情熱をもって教授するということが前提になる、とお考えください。もっともこの前提のさらに大前提となるのが、政治家自身の自らを改善したいという強い熱意と期待感であることは、いうまでもありません。
さて、そうした条件が整った場合、仮に1時間の身体意識トレーニングを行ったとしたら、当日の労働生産性は、失われた労働時間のロスを確実に補って余りあるほど向上します。
つまり、1時間のトレーニング+9時間の労働で、通常の10時間分以上の労働が確実にできるということです。前記の前提、大前提となる条件さえクリアしていれば、その例外はありえない、と断言できます。
というわけで、多忙な中、1時間分の労働時間を身体意識トレーニングに割いたとしても、その時間コストは間違いなくペイするということです。
したがって、10時間の労働時間のうち、1時間政治に関わらない自己対面の静謐な時間を設けることで、質の高い気分転換以上になるとしたら、それだけでもメリットがあるといえるでしょう。
このことを最初におさえておいてください。
そして、その1時間のトレーニングの内訳ですが、これは必ずしも朝なら朝に、1時間連続してトレーニングしなければならないというわけではありません。
同じ1時間のトレーニングに取り組むにしても、その政治家の立場や時期によっても、大きく異なってくるはずです。
たとえば、国会が会期中なのか、閉会中なのか、本人が閣僚なのか、野党議員なのか、選挙が近いのか、遠いのか、etc.によって、臨機応変に取り組んでもらえればいいのです。
朝30分時間がとれる議員ならば、まず自宅を出る前に30分間身体意識のトレーニングを行って、あとは10分×3回を時を選んでやるようにするとか、国会会期中だとしたら、自分が議論に参加していない時間に、呼吸法のトレーニングに取り組むといったこともできるわけです。
とくに呼吸法などは、席に座りながら、他の誰にも知られずに、いくらでもじっくり行えるので大変おすすめできるトレーニングです。
そうしたものまで組み合わせれば、いろいろなやり方があるわけです。これらをトータルで考えてみると、だいたい次のようなことが言えるでしょう。
その日、その場で、身体意識のトレーニングに1時間使うと、残りの9時間で、普段の3割増し、つまり9時間の1.3倍、時間にすればおよそ12時間分の仕事をやり切れるぐらいの効率化が確実に実現できます。
しかもこれは、その人が上達した結果ではなく、即時的な効果に限ったパフォーマンスの話です。
では、どうしてこれほどまでの即時的な効果が得られるのか。
それはこのトレーニング法の中に、大きく分けて次の2つの要素が内在されているからです。
ひとつは極めて効率的な全身体と脳の疲労回復法です。この疲労回復法がベースになって、それが大きな成果を上げつつ、身体意識を高める方法が組み込まれているからです。この身体意識を高める方法というのは、脳機能を高める方法とも言い換えることができます。
ここでまず注目していただきたいのは、極めて効率的な疲労回復法に成功することが前提なので、トレーニングに取り組んだ瞬間から、すぐさま疲労が解消していくという点です。言うまでもなく、疲労回復法というのは、いま溜まっている疲労を解消しなければ、疲労回復法とはいえないので、疲労はその場でみるみる減っていきます。
人は皆、朝起きて労働をはじめたときから疲労が溜まりはじめ、場合によっては、朝起きた時点で前日の疲労が抜け切っていない人もいるでしょうから、そうした疲労の蓄積は誰にだってあるわけです。そしてそうした疲労は、その人の能力を確実に減衰させ、仕事の効率を著しく低下させています。
したがって、疲労回復法によって、その疲労を取り除くことができれば、必ずその低下している能力を取り戻すことができるのです。
そうした疲労解消によって取り戻せる能力は、その人が発揮している能力の最大約5割に相当するので、前述の身体意識トレーニングによる、3割増しの効率化というのは、ほとんどこの疲労回復によってもたらされるものなのです。
逆にいえば、疲労の影響というのはそれほど大きく、政治家に限らず、皆さんの能力の足を引っ張っているものであり、しかるがゆえに疲労回復効果だけでもそれだけの利益があるということを、ぜひ覚えておいてください。
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さて、その疲労回復法ですが、具体的な方法としては、まず皆さんもよくご存じのゆる体操が挙げられます。その中でも、疲労回復法として典型的に役立つ10種類ほどをピックアップし、現役の国会議員十数名に処方し、指導したことがあるので、その話をここでご紹介しておきましょう。
私から指導を受けた国会議員の方々が、その後継続的にトレーニングに取り組んでおられるかどうかの追跡調査を行っていないので、全員のデータはわかりませんが、少なくとも約三分の一の方がいまでもゆる体操を続けている、ということがわかっています。
その人たちからの報告を見ても、彼らは各々に労働生産性、つまり仕事の効率が上がって、タフネスさも増しているのは明らかです。
具体的にいえば、以前に比べ、よく眠れるようになった、風邪をひきにくくなった、持病がよくなった、書籍を読むスピードとスタミナが上った、人に対して明朗で寛容になった、行動が積極的になった、プラス思考が増した、時差ボケが減った、旅行疲れをしなくなった、大きな声で長時間しゃべれるようになった、歩くのが速くなった、ゴルフのドライバーの飛距離が増した、等の報告を受けています。
そして何より肝腎なのは、これらすべての改善効果が生活や仕事の真っ只中で何の努力感もなく勝手に生じてくる、というところです。
これらのパフォーマンスアップというのは、ゆる体操による疲労回復法を上手くやるだけでも得られるようになっています。
まずこのことが、最初の疑問である実働時間を1時間減らした場合、その減少分をトレーニングで補うことができるのか、ということに対する答えです。結論からいえば、労働時間を1時間減らしたとしても、それをカバーして余りあるほどの成果が得られるのが、疲労回復法をベースにした身体意識トレーニングなのです。
しかもこの疲労回復法のメソッドは、それほど難しいものではありません。だから政治家の皆さんには、それぞれの主義主張、党派などはさておき、まずはこの疲労回復法に取り組むことで、元気になっていただいて、労働生産性を高め、効率のいい仕事をすることから、日本再生に向けて前進していってくれることを強く望みます。
どのような主義主張、信条の立場に立っている政治家であったとしても、その政治家としての活動全体を支えている、いわゆる認識、思考、判断、行動といったものは、いずれも適当に済ませられるものではありません。
だからこそ、疲労が解消し、能力が上がることで、各々の主義・信条に従った発言・行動というものが、より鮮烈化して力強くなることが、肝要なのです。
私たち国民、つまり国会議員の政治活動を見守っている側からすれば、やはりどのような主義・信条の立場の政党、政治家にしても、元気一杯で力強いということは大事なことです。しかも、一党だけが力強いのではなく、どの政党、どの政治家たちも力強く、「適当に済ませてしまおうぜ」というごまかしがなく、自分が本来、主義主張したかったこと、信条に則って行う言動といったものを、より力強く、より本心に近いところでやっていただいた方が、有権者、国民にとってはるかに望ましく、納得もできるはずです。
その結果、ときに自分の考え方とは異なる主義主張の政党が政権をとったとしても、政治の動き、政治と連関する社会の動きがよくわかるという意味では、大きなメリットがあるわけです。支持された政党、支持されなかった政党のそれぞれが、どういう考えに従って、何をやろうとしているのか、それらの事々がより良く国民に理解されるということです。
その結果として、私たち国民の、政治、政党、政治家に対する見方がより力強くなることも、当然期待できるはずです。
そういう意味でも、各政治家が疲労を徹底解消し、大いに元気になっていただく必要があるわけです。
そしてそのうえで、身体意識の強化が上積みされていくとどうなるか。
疲労回復法だけでも、3割の能力アップが保証できるわけですが、身体意識を実際に高めていく、脳機能を高めるトレーニングにも同時に取り組んでもらわなければなりません。
こちらのトレーニングは、ある意味疲労回復法以上の伸びシロが期待できます。その伸びシロは理論上はほぼ無限大ですが、疲労回復法の持つその日その場から、というほどの即効性、即時性は望めません。それでも極めて熱心に取り組んでいただければ、およそ3年、ある程度熱心に取り組んでいただいた場合でも5年ぐらいの期間があれば、その人の仕事の能力は2倍~3倍にもなるでしょう。
じつをいえば、残念ながら国会議員では、そうしたレベルでの指導を私が行ったという例はまだありません。そのわけは、そこまでの指導を受けることを希望した国会議員がまだいないからです。
したがって、国会議員の仕事の能力が2~3倍上がったというデータを提示することはできません。
その代わり、企業の経営者や、大学の研究者、医師、弁護士などの、国会議員である政治家たちに匹敵するハードで重責のある仕事に従事している人々ということであれば、すでに数多くの実証データを持っています。
具体的にどういうかたちで現れるかは、身体意識トレーニングに熱心に取り組んでいる本人たちの声を聞くのが一番でしょう。
私が彼らに、「身体意識のトレーニングに5年間取り組んでみて、トレーニングしていなかった5年前と比べ、仕事の能力、効率はどれぐらい向上しましたか」と訊ねてみたところ、大半の人が「2倍」と答え、「3倍になった」という人も少なからずいたので、仕事の能力は、概ね2~3倍になるというのは極めて妥当な表現と言えるのではないでしょうか。
2~3倍というと、ずいぶん幅があるように思えるかもしれませんが、これはトレーニングへの取り組み方の違いだとお考えください。つまり、極めて熱心に取り組まれた方は3倍、ある程度熱心に取り組まれた方は2倍、とそういう結果になったわけです。いずれにせよ、身体意識のトレーニングを日課にされている人たちは、例外なくこうした成果を上げているという実績があるのです。
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次に、その2~3倍に向上した仕事の能力の中身についても、具体的に検証していきましょう。
たとえば大学病院に勤務する外科医師のAさんは、もともと知的には優秀な人物でしたが、一方でチームプレイが非常に苦手という面がありました。ご存知の方も多いでしょうが、今日の高度な外科医療というのは、チームプレイで成り立っています。そのため、手塚治虫のブラック・ジャックのように、一人の凄腕ドクターが、一人の力だけで活躍できるような環境はほぼ存在しないというのが実情です。
したがって、高度な医療を施すには常にチームプレイが必要で、人間関係を高めながら従事していくことが欠かせません。
にもかかわらず、Aさんはそのチームプレイが大の苦手という、これからの高度医療を担っていく医者としては、致命的な欠点の持ち主だったのです。
そんなAさんが、身体意識のトレーニングに熱心に取り組んだ結果どうなったかというと、トレーニングを開始して5年後には、勤務先の病院でもっともチームプレイが得意なドクターになったのです。
Aさんは、いまその病院のある医療チームのセカンドリーダーを任されています。彼は40代前半で、チームリーダーは50代。リーダーはすでに体力、気力とも下り坂に差し掛かってきているので、40代前半のAさんにとっては、リーダーのそうした部分を補うことも重要な仕事のひとつです。リーダーに余計な負担をかけないように、さまざまなことを気配りしたり、実務的なことも実際にフォローしているわけです。
リーダーは彼のそうしたアシスト、フォローを重々承知していますが、Aさん自身はそのことを絶対に誇るようなことはしないのです。だからリーダーは、Aさんに対し大いなる信頼感と感謝をもって、しかもAさんのアシストによって、リーダー自身も余裕ができるので、リーダーでなければ発揮できない能力というものを100%発揮すべく打ち込めるわけです。
その結果、彼はチームリーダーとして大変いい仕事を成し遂げているのです。そして、その環境を作り出しているのは、他ならぬAさんなのです。
また、そのチームはある程度大きな規模を持っているので、リーダーとAさん以外に、30代の若手ドクターも数名参加しています。どこの組織でも見られるように、30代の若手と50代のリーダーでは、なかなか意思疎通が上手くいかない面もあります。
でも、このチームではAさんが若手のドクター全員を上手にまとめ上げているので、チームとしての機能も最高レベルにあるそうです。
さらに看護師など他のスタッフたちも、同様にAさんがまとめ上げているので、連帯感を持った理想に近いチームワークが出来上がっているのです。
また人間関係以外はどうなっているかというと、彼自身は控えめな性格なので、「技術の方はそれほど進歩していないんですけど……」と言っていましたが、さらに詳細に聞いていくと、例えば細かい神経や血管を処理する技術やそのスピードなど、一つひとつを取り上げて質問していくと、明らかに5年前より数段上達している現実があります。
さらに極め付けともいえるのが、「むかしはとにかく疲れやすく、病院のフロアを1階分上るだけでもエレベーターを使っていたのに、いまは何階だろうと階段で上るようになりました」というコメントです。
つまり、年齢が5歳上がったにもかかわらず、まったく疲れなくなったというのです。第一線で活躍している医師の勤務は、非常に苛酷とされていますが、そうした状況下で、まったく疲れないなどというのは通常ありえないことです。にもかかわらず、Aさんは疲れ知らずで、元気に激務をこなしています。これもまた身体意識トレーニングの大きな成果といえるでしょう。
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さらにもう一名、今度は大学の研究者であるB教授の例をお話しましょう。
B教授は国内のみならず、海外でも活躍している国際派の教授です。そんなB教授の仕事は、まず本業ともいえる大学の学生を指導し育てる仕事がひとつ。それから学者として論文を書く仕事とそのための研究があり、それ以外に最近は文筆家としても活躍しはじめ、執筆活動も盛んに行っています。さらに海外への出張が多く、国内でも講演等で飛び回る毎日です。そこへきて、大学内でも信頼されるようになってきて、大学から頼まれるさまざまな仕事が何倍増もしてきたそうです。大学というところは、じつは雑務が膨大にある職場なのですが、それを片っ端から引き受けるようになったとのこと。
このようにB教授がいま抱えている仕事は、5種類もあります。講義と、自身の研究で精一杯という大学教授が多い中、これは驚異的な仕事量です。
ところがB教授によると、いまや大学の授業と、自身の研究・論文執筆、大学の雑務の仕事は、「まったくへっちゃら」「何の努力感もなく、いくらでもこなせる」と明言しています。その証拠に、いまでは時間が許される限り、何でも大学の仕事を引き受けるようになってしまったということです。
そしてそれ以外に、文筆家としての仕事を増やし、海外にも以前にも増して頻繁に渡航しています。それはB教授の能力が上がっていることももちろんですが、とくに海外出張が増やせるようになったのは、大きな秘密があるのです。
それはいわゆる時差ボケがまったくなくなってしまったからです。それはもちろん身体意識のトレーニングによるものです。
日本から欧米に出かける場合、飛行機の搭乗時間は10時間以上になりますが、B教授はその飛行機の機内で、疲労回復法をベースにした呼吸法をおこなったり、呼吸法を中心とした身体意識のトレーニングをやることで、出国の際も、帰国の際も、飛行機に乗る前より、むしろ身心のコンディションがいい状態になって飛行機を降りることができるようになったのです。
だから現地に着くなり、最高のコンディションでいい仕事ができて、日本に帰ってきたときにはさらに元気な状態になっているので、帰国と同時にすぐさま貯まった仕事が片づけられるわけです。
そうした事実があるからこそ、講義も充実し、研究も進み、決して余技ではない位置づけで取り組んでいる書籍の執筆活動にも十分打ち込むことができるのです。
結果として、B教授の場合も、トレーニングをはじめる以前に比べ、少なく見積もって3倍の質と量の仕事をこなせるようになったと語ってくれました。
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こうした実績を知っているからこそ、私はまずは一国民として衆議院・参議院合わせて722人の国会議員全員に身体意識トレーニングに取り組んでもらいたいと考え、さらに専門的立場から取り組むべきだと主張しているのです。
仮にも民意を代表して国会議員になろうという方々ですから、そもそもバイタリティを含め、優秀な人たちが多かったはずです。
そのうえ、本稿で取り上げてきた各党の党首クラスの人物ともなれば、党の所属議員を代表するだけの資質があったからこそ、政党の顔として選ばれているわけです。
にもかかわらず、そうしたポジションを与えられながら、国民からの期待を背負えずに、むしろそっぽを向かれるような、より厳しくいえば、半ばあきらめられているような状態になっているのは、何故なのか。
それは、彼らの本来持っていた資質と能力がきちんと発揮されていないからだと、私は考えています。
つまり彼らは、彼らの本当のポテンシャル、可能性、もっといえば「本当の自分」というものに出会えていないのです。
「本当の自分」というのは、これまで語ってきたように、本当に疲労が解消し、完全無欠に疲労のない身体と脳の状態であり、そのうえで優れた身体意識というものが見事な構造をもって形成されている状態に他なりません。
今回の「各党代表クラスの身体意識分析 第三編」は、第二編までをお読みになった読者から、おそらく寄せられるであろうこうした反論、質問にお答えする目的で語ってきましたが、その答えは前述のとおりであります。
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さらに一言付け加えておきましょう。私が「国会議員各位は、毎日1~2時間身体意識を鍛えるトレーニングに打ち込むべきだ」といったとき、その鍛錬時間に幅を持たせたのは、もちろん深い意味があります。
読者の皆さんは、「多忙な国会会期中は1時間、国会閉会中は2時間やる」とそう解釈された方が多いのではないでしょうか。
ところが、私の提案はその正反対なのです。
国会会期中、質問等々に応じたり、あるいは質問に立ったりすることがない議員でしたら、国会会期中こそ、2時間のトレーニングがみっちりできる期間なのです。議場に入り、各々の席に座って審議や議論を聞きながらでもできる、身体意識を高める呼吸法やトレーニング法はいくらでもあるからです。
しかも、そうしたトレーニングをやったからといって、議事進行が上の空になってしまうようなことはなく、審議や討論はきちんと聞きながら、同時にトレーニングをすることが可能なのです。
それどころか、トレーニングに習熟してくれば、むしろトレーニングを行いながら会議に参加した方が、より話の核心を掴めたり、より多角的に相手の語った意見を評価することができるようになるのです。
ここから先の話は、上級者以上にしかすすめられませんので、注意深くお読みください。
たとえば自動車の運転のような、一瞬の油断も許されないような状況下でも、身体意識を高めるトレーニングはできるのです。現に、私自身は日常的にそうしたことに取り組んでいますが、身体意識を高める呼吸法などのトレーニングに習熟してくると、クルマを運転し、移動している間じゅう、トレーニングの時間として活用することができるのです。
だから、長時間のロングドライブなどは、トレーニングのためのうってつけの時間ともいえます。
たとえば、片道6時間運転し続ける出張があったとしたら、出発前より目的地に到着した後の方が、はるかに身心爽快、元気になってしまっていることが、しばしばあります。
というわけで、国会議員の方がこうしたトレーニング法に習熟した暁には、議場でトレーニングをしながら、同時に他の誰よりも充実して会議に参加しているということも、可能になってくるのです。
というわけで、この毎日1~2時間のトレーニングというのは、大変ダイナミックかつ、ケースbyケースに設定することができるわけです。
さらにいえば、私があえて最少1時間と設定したのは、選挙期間中のことが頭にあったからなのです。
どの議員も選挙期間中は必死でしょうから、さすがに1日の内、2時間のトレーニング時間を確保するのは難しいだろうと考えたわけです。
「えっ、1分1秒でも惜しい選挙期間中に、1時間もトレーニングなんてできっこない」という前に、もう一度先程の時間コストの話を思い出してください。
前述のとおり、選挙期間中でも1時間のトレーニングをやれば、選挙の疲労も回復し、はるかに能力アップして、効率が上がり、つまりは票が稼げるようになるのです。
したがって、国会議員の皆さんには、自分たちの置かれている状況を、様々な観点からよく理解していただいて、ぜひこうした身体意識を高めるトレーニングに打ち込んでいただきたいものです。
おそらく今までの政治家としてのキャリアからは、想像もつかないどころか夢想だにできないような提案だと思われるでしょうが、日本のため、地域のため、自分のためにも、ぜひ勇気をもって取り組んでいただけることを願っています。
とくに党単位、会派単位、チーム単位など、集団で取り組んでいただくことを期待しています。
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最後にもうひとつ、皆さんにとって興味深いお話をしておきましょう。
前回の「第二編」でロンドンオリンピックで活躍した内村航平選手と、太田雄貴選手の身体意識図を掲載し、現代の日本にもこれほど見事な身体意識を持った人物がいると紹介しました。
そうした事実から、「だったら彼らが政治家に転向すればいいのに」と考えた人も多いのではないでしょうか。
実際に、現職の国会議員の中には、橋本聖子や谷亮子のように、メダルまで獲得したかつてのトップアスリートもいるわけです。
そうした元トップアスリートなら、優れた身体意識の持ち主なのでは? という疑問もあることでしょう。せっかくですので、この件についても、しっかりお答えしておきます。
結論からいえば、オリンピックでメダルをとれるようなトップアスリートでも、多くの場合、引退して選手生活から離れた途端、あっという間に身体意識がなし崩しになっていき、瞬く間に凡人に近づいていってしまう、ということがわかっています。
厳密にいえば、「これで引退しよう」と決意して、意識のベクトルがそちらに向いた瞬間から、身体意識もガタガタと音を立てて大きく崩れていってしまう傾向があるのです。
したがって、オリンピックで金メダルをとった偉大な選手であっても、ピーク時の身体意識を100、ごく平凡な現代の日本人の身体意識の水準を3とした場合、引退から半年もすれば、せいぜい30、つまり身体意識の水準は最盛期の1/3前後にまで低下、希釈されてしまいます。
しかも、それはその30のレベルで下げ止まるのではなく、その後、身体意識にいい影響を与える生き方を自ら選んで、そうとう専心的に取り組んでいかないかぎり、時間が経つにつれさらにどんどん薄まっていきます。
残酷なようですがこれは事実であり、引退から数年も経てばトップアスリートだったからという背景、アドバンテージはほとんどなくなっているといっていいでしょう。
ゆえに、もしそうした引退から何年も経っているような元トップアスリートが、国会議員を務めていたとしたら、その人の身体意識は、国会議員という立場、仕事から生まれる身体意識の形成力に頼った存在でしかありません。
それは、なぜトップアスリートたちが、なぜあれだけの優れた身体意識を形成し、身に付けることができたのかを思い出していただければ、すぐにご理解いただけるはずです。
現役時代、世界の頂点でまさに切磋琢磨して闘っていた頃、選手たちは、厳しい自己管理の中で、徹底したトレーニングの日々を過ごしていたわけです。
そして、世界が注目するオリンピックの大舞台をはじめ、衆人環視の状態で、勝つか負けるか。決勝なら勝てば金メダル、3位決定戦でも、勝てばメダリストとして、母国の英雄評価が約束され、負ければ人々の記憶に残らない……。まさに栄誉と恥辱が隣り合わせで、非常にはっきりした岐路に立たされるのが、トップアスリートの宿命です。
そうした場面で、選手を支えてくれるのは、自分の強烈なモチベーションと徹底した鍛錬以外の何ものでもありません。
そうした環境の中で勝ち抜くことで、闘志やモチベーションが再生産され、さらに練習においてもさらに徹底した自分磨きに専心していけるようになるわけです。
そうしたことの繰り返しによってはじめて、あれだけ見事な身体意識の形成に至ったわけですから、引退して政界に身を置いてしまった以上、その身体意識を維持することは困難なのです。
なぜなら、政治家としての生活の中に、選手時代のような厳しさを伴った好循環システムを構築しにくいのは明らかだからです。
というわけで、政治以外の分野で活躍している優秀な人材、つまり優れた身体意識の持ち主を、いきなり政治の世界に飛び込ませても、目覚ましい成果を上げ、日本の救世主になるかというと、あまりに環境が違うため、それはそれで相互に困難であるといわざるを得ないのです。
やはり、優れた政治家として手腕を振るうためには、政治の世界で、政治家として身体意識を鍛えていくことが欠かせないのです。
つまり、「プロの政治家として、優れた身体意識をもって生きていく」、そうした覚悟がなければ、何人たりとも政治家として大成することはできないということです。
しかるがゆえに、我々国民一人ひとりが、そのことを政治家に強く望んでいくことが必要なのです。
とくに各党の党首クラスの人物ならば、それなりに人生をかけて、いまのポジションまで上り詰めてきたはずで、ポテンシャルそのものが低いわけではなかったはずです。
しかし、日々の活動で疲れ果て、身心は疲弊し、身体意識も一国を背負えるレベルには程遠い状態になってしまっているので、我々の方から、「本来のあなた達の力はそんなものではないはずだ。身体意識を鍛えるトレーニングに打ち込んで、本来の自分を取り戻してくれ」といった要求を、彼らに突きつけることが肝要です。
と同時に、今回、この第三編でお話してきたことは、政治家に限らず、どのような職業についている方にもすべてあてはまる内容ですので、そうしたことを政治家に要求するとともに、自分自身に同じことを要求する人生を送るようにしていただきたいとも、考えるのです。
前述の医師や大学教授のように、40代、50代、さらには60代、70代でも、トレーニングによって、能力を2倍、3倍と高めていくことは可能であり、つまりは老若男女すべての国民が、いまの能力を何倍にも向上させる力を秘めているのです。
そうして、1億2000万人の日本国民全員が、2倍、3倍の能力になったとしたら、どんな優れた国民・国家ができるかを、ぜひ想像してみてください。
私はこれからは本気でこうした能力向上を目指していく時代だ、と考えています。
すでに極めて効果の高い疲労回復の理論と方法も、整備されてきていますし、身体意識を高める理論と方法も同じように整備されてきています。
そうした観点からすると、いち早く、この考え方と方法を国民がこぞって取り上げ、そして国家がそれらを強力に推進した国が、幸福で力強い、優れた国家という意味で、世界をリードしていく国家になるのは明らかだ、と私は考えています。
― 各党代表クラスの身体意識分析 了 ―